眼が覚めて、それですぐに身体を起こした。気付いたのか、横で身体を小さく纏めて縮まらせたフェルが小さく呻く。すぐに手を向けて、頬を撫でた。
「大丈夫よ。もう少し寝ていて大丈夫」
「……――」
 何かを言いかけた紫が、手の温かさに負けてか閉じられて行く。寝息に戻ったのを見て、広い寝台なのに変わらず閉じこもるような姿勢で眠っているのを見て溜息をつきそうになるのを押しとどめる。代わりに重く暖かい掛布をその肩を覆い、口元まで隠れるようにかぶせてやる。この方がこの子はよく眠る。完全に姿が見えなくなるくらいにまで潜り込んでしまっていることもある。
 ――私の方が年下なのになあ、とは、心中に苦笑する。それからそっと掛布を抜け出て、ガウンを取って光が差し込まないように気をつけて寝台から抜け出た。
 ガウンに袖を通して前合わせの紐を結ぶ。柔らかな綿のガウンもこれだけでは寒い、と思いながら、続き部屋の扉を開いた。常の衣装を揃えて保管する衣装部屋。姿見は布で鏡面を覆い隠されている。屋敷の主人が鏡を好まないからだ、化粧の鏡台とこの姿見以外には、鏡は使用人の部屋にしかない。
 その重い姿見を慎重に横によけて、その後ろを覗き込む。床に小さな窪みがあるのを見つけてそこに手を掛けた。引き上げれば小さく床が外れて、その中に木箱がきちんと据わっているのに安堵する。持ち上げて、埃を払う。蓋を開いて、中に入っているものが古びてしまっていないのを見てほっと息をついた。
 わからない、と、手を繋いだ彼女は言った。『斎場』、国の為に死んだ人々の、砕いた命石を収める場所に出向いた時に。初めて足を踏み入ればそこは広い場所で、神殿の地下のさらに下に広がっていた。広い空間の中央には巨大な石板が並んで、そこに多くの名が刻み込まれている。名前も色も覚えている。どんな声だったのかも覚えている。でもどんなことがあったのかわからない、思い出せないと呟いて、一歩足を踏み入れたそのまま引き返してしまった。良いのかと聞けば、思い出してから来る、と、そうやって力無く笑っていて。
 そのまま足を止めてしまって、耐えきれずに崩れてしまったのを見て、動揺したのは事実だ。――あの子はいつからか、泣かなくなっていたから。
 昨日の夜にあの子を寝かしつけた後、思い出すにはよすがになるものが必要だろ、と言った彼は、一度蒼樹に戻ると言っていた。よすがと聞いて思い出したのがこれだった。初めて会ってからしばらくして、ようやく眼が合うようになって来た頃、侍従や護衛たちの眼を盗んで、『隠し事は無し』の約束に従って見せてくれた宝物。
 箱を抱えて、床を戻して鏡を戻す。扉を開いて部屋の隅にある柱時計を見れば侍従が来るまでまだ少しある。箱は一旦鏡台に置いてから天蓋をそっと持ち上げれば、銀色に光が当たって煌めいていた。苦笑する、起き上がって座り込んだ腕には、枕元に並べられたぬいぐるみのうちの一つ、白い梟。
「寝てて大丈夫よって言ったのに」
「……さむい……」
「冷え性だものねーフェルは。他の人がいると大丈夫なのに」
 世話がかかる、と思いながらも表情は勝手に笑みを浮かべている。寝台に上がり込んで枕元のガウンを取って肩に掛けてやる、その間に眠そうに眼を擦るのにはふふと笑って、白い腕が抱きかかえた白梟も一緒にして紐を結んでやった。
「おはよう、フェル」
「……おはよう、レナ。今日は……」
「ん、予定通りならお客様が二人、どっちとも夕方ね。先に、お昼が終わったあとに貴族院臣民院の両議長との顔合わせ。臣民院の議長は次の春華祭で任期を終えるから、そのご挨拶も兼ねて、って聞いてるわ」
「ん。……わかりました、起き、ます。準備、しないと」
「そうね。でもその前に見て欲しいものがあるの、いい?」
 疑念を浮かべた顔は、それでも随分と眠気の晴れた表情になっていた。抱えていた白梟をガウンの中から出して、枕元に並べ直して袖を通してくれるのを見ながら天蓋の片面、枕元の方を開く。足を下ろして立ち上がったところで片手を握って引けば大人しくついて来る、それでもその途中で気付いたのか、一瞬だけか数秒か、裸足の進みが遅くなる。
「……それ」
「あたしも昨日思い出したの。ずっと前に見せてくれたでしょ、あたしに。宝物だって」
 大事なものは奥へ奥へ、誰の眼にも付かない場所へと押し隠してしまう性格だ。誰かが手を貸さなければ届かない深みにも望んで大事なものを落としてしまう。取り返したくても一人では手の届かない場所、大嫌いな鏡の根元に。
 ゆっくりと足並みを取り戻して、手の届くところに来たと見てそっと手を離す。両手が動いて軽い音を立てて蓋が開く。拾い上げた手には、鈴蘭を模った精緻な銀細工に真珠を埋め込んだ髪飾り。一本の使い込まれた万年筆と皮表紙の小さな手帳、藍色の小さく畳まれた布――クローク。
「あった方が、思い出しやすいと思って。……どうかしら」
 すぐに応えがないことはわかっていて、それでもすぐに問いだけは向けてしまう。その方が言葉を選びやすいから。
 柱時計の針が重なる音。扉の向こうの扉が開く音が微かに聞こえる。
「……持ってても、いいの……?」
「いいと思う。その方が良いとあたしは思うわ、思い出は、思い出してあげないと忘れたまま失くなっちゃうから」
「……忘れてても、思い出、かな……」
 え、と呟いた。呟きが落ちたことは、扉を叩く音で紛れてしまったようだった。返事を待たずに扉が開く音。
「あれ、起きてたか」
「お早い、お目覚めですね」
 聞こえたのは今は『兄』の身分にある彼と侍従長の、共に少し驚いたような声。侍従長が声を掛ける前に起き上がっているのは確かに珍しいことなのだが、と思う間に続けて侍従長が口を開いた。
「レナ、何か?」
「う、ううん、ちょっと物置から取って来たもの見てただけ。フェル、大丈夫……?」
「大丈夫です、懐かしくて」
 ――嘘だ。判った。両手に持ち上げていたそれを戻して蓋をする仕草に変なところはない、『いつも通り』だった。蓋の中央には雪割雪華。当代紫銀の紋章。彫り込んだのは当時副長だった彼。そうと見て取っても解っているのか。不審に思えた、だからすぐに振り返ってクロウィルとレゼリスの二人に向かって言った。
「今日はあたしが出るわ、フェルも本当に仕事しちゃってて疲れてるし」
「え、大丈夫ですよ?」
「フェル疲れてくるとちゃんと寝なくなるからダメ。明日薬飲むの私だし、ちょっとは疲れておいた方が良いし。貴族院の議長、フェル苦手でしょ?」
「え、あ、……ですけど……」
「だから今日は『私』が出ます」
 手を伸ばす。肩に手を当てて顔を覗き込むようにすれば、怪訝そうにしながらも頷いてくれる。それに笑顔で頷き返して、それから一歩分の距離を詰めて囁いた。
「何か変よ、図書館に行ってから。気になることがあったらちゃんとクロウィルと話して。クロウィルが今一番余裕あって冷静だから。いい?」
「……うん、わかった」
「うん。さって、着替えましょ」
 ぱし、と両肩を叩いて、それからその肩を押した。衣裳部屋にこの紫銀は入りたがらない、だから衝立を立ててそこで済ます。その衝立の方にフェルを押しやりながら横に顔を向けた。
「クロウィル、たとえ兄さんでもこの年頃の淑女の着替え覗くもんじゃないわよ!」
「覗きに来たかっての。厨房見て来たけど結構豪華だぞ、急いでな。レゼリス、あと頼んだ」
「ええ。では閣下、お召替えを。レナ、貴女も神殿からお呼びが掛かっていますよ、着替えたら神殿大公のところへ」
「はぁい」
「はい」
 神官の格好で居れば不自然にもならないから、というそれには良しと思う。このあたり、この侍従長は察しがいいから助かる。思いながら、いつも通りの様子にはやはり不審が禁じ得なかった。



 ドレスよりも神官服の方が気が楽でいい。この屋敷に常駐する神官も居る、紫銀の補佐のために祭祀の神官が三人程度部屋を持って活動しているが、その一室にではなく、常の私室の方にこもっていた。目の前には書類の束が何枚か、仮に誰かが乱入して来たとしても大公との協議という名目で通る。隣に座っているのは正装でもない、文字通り私服のクロウィルだが。
 朝食を終えて、昼食の頃に大公と協議という名目でこの部屋で食事を共にして、そうしている間ずっと膝に乗せてまるで抱えるようになっているのは赤茶の革表紙の一冊。その間に、クロウィルは非公式の国王との謁見を終えていたらしかった。曰く紫旗の報告を兼ねた雑談、だったらしいが。
「それで大丈夫だったか?」
「……はい。ありがとうございます、急だったのに、こんなすぐ」
「玉命が有効な間って、俺の身分って王子と同等なんだよな。当然仮だけど」
「王子」
「王女の兄。王子だろ?」
「……そういえば……」
 口元を片手で覆う。市井にそうとは公表されてはいないが、先王の玉命は今上、スィナル女王の撤回がない限り生き続ける。王の命は議会に左右されない勅令、そして紫銀にもその兄にも継承権は認めないと先王の遺言には記されていた。遺言はその王から発される最大の勅令と捉えられる。正しくは「兄役」であって正式に義兄としての契りを交わしたわけではないが、この国の貴族のほとんどは王の勅令には素直だ。尤も、今上陛下の恐ろしさを知らない場合はその限りではないが。
「だからちょっと急いで転移陣使わせてもらった。紫旗の時でもあっちこっち使わせてもらってたんだけどな、だからあんまり急ってほど急じゃないんだよ」
「そう、なんです?」
「そう。夜は蒼樹で寝て来たしな。……それより、なんかあったのか?」
「なんでです?」
「朝。レナの様子おかしかったからな」
 言えば、本を見下ろしたままの頭が傾ぐのが見えた。自覚してないのかと納得して、立ち上がる。ちょっと待ってろと言い置いて、それから許可を得ずに寝室への扉を開く。鏡台の上から、小さいとも言えない大きさの箱を片腕に持ち上げて持って来れば、フードを被ったままの紫はその箱に気付いて口元を強張らせていた。
「覚えてないんだろ、これ」
 書類の束を除けて、テーブルの上に据える。簡素な木箱だ。装飾は蓋に彫り込まれた雪割雪華だけ。先王が定めた、紫銀の無い長い年月から現れたものとして雪割草を当代紫銀の印に定めたもの。
 本を膝に置いたままのフェルは、手を伸ばさない。中に入っているものは四つだけ。鈴蘭の髪飾りはレティシャの手掛けた魔法具で、万年筆はカルドが共通語の文字が一通り書けるようになり読めるようになった祝いにと贈ったもの。柔らかい革の表紙の小さな本は紫銀本人が書いていた日記で、藍色の布、クロークは、前団長が命石以外に遺した唯一のもの。
「……クロウィル」
「うん?」
「これ、……読んでみてください」
 差し出されたのは膝の上の赤茶の本。金の装飾の細やかなそれ。受け取れば抵抗もなく明け渡してくれる。表紙を開くと同時に声が聞こえた。
「朝クロウィルから受け取って、読んだんです。全部」
 怪訝に思いながら聞いて、遊び紙と中表紙をめくって本文のそれを開いて、瞠目した。
 ――白紙だった。開いた紙には何も書かれていない、白紙の見開きを何度も捲って本の半ばまでそれを繰り返して、それでやっと見えたのはかすれかけた日付。六二七〇年十二月二十五日。その下に羅列されていたのは命色とそれに相応する人物の名前、「会話があった」ことを、ただそうとだけしか書かれていないもの。
「何も書いてない」
 諦観に近い声だった。あるいはそれを予期していたような声だった。
「夢でも見たんです、六二七〇年の十二月二十五日。でも、夢で何を見たのかも覚えられない。一番古い『思い出』がそうだって判ってて、そこに誰がいたのかも覚えてるのに、なにが起こったのか覚えられない」
「……他のもそうなのか」
 返答はない。変わるように紫銀の視線が本を見やる。ページを捲ればまた白紙、その間にぽつぽつと誰かの名前があるだけか、日付があるだけ。本の最後から数えれば十数枚目、そこでようやく見開きが文字で埋め尽くされる。拝樹を受けると決めた日から、それでも空白が目立つ場所が至る所にある。
「……おかしいとは思ってたんです」
 最後のページにはクウェリスの申し入れに承諾した旨が記されて、それで本は終わっている。この時に作ったのだから道理だ、常に身の回りに置いていなければ、持ち歩かなければ新しいページは生み出されない。だが。
「アテイアの村の近くの森で、『異種』討伐の任務があって、その時に襲撃されましたよね、私とフィレンスと」
「……ああ。紫旗伝いに報告は受けてる」
「途中で警邏隊のユールさんとディストさんとフォルティさんが来て、でも、襲撃されたことは覚えてても、誰に襲われたのかも、どんなことがあったのかも覚えてない。もっと古い、魔法のことも歴史のことも、そういうことは覚えてるのに、他人が関わった出来事はすぐに忘れる。忘れて、二度と思い出せない。この前の鐘の日、宰相様が神官として来てくださって、少し話したんです、その時に『研究所の二の舞にはならない』って仰ってた。……研究所って、なんですか」
 手が祭祀服の白を握り締めている。何を言う間も無く、震える声だけを聞くしかなかった。
「三月二十七日、七年前の。団長もレティシャもカルドもエディルドもトーリャもディウスもそこで死んだのは覚えてるのに、なんで死んだのか覚えてない。『紫銀を守って死んだんだから栄誉なことだ』って誰かが言ってたのは覚えてるのに。記録を調べたら、その日に王立研究所が消失した上に私が拉致されてる。なのにそのことも覚えてない。私が殺したのに」
「フェル、」
「図書館に行った時も言われました、私が殺したって思い込むのは間違いだって。でも紫銀がいなければ死ななかった人たちなのに、どうせ誰かを護衛して死んだとしてももっと生きられたかもしれないのに、その人たちのこと何も覚えてない。教えてもらってその場では思い出しても覚えておくことが出来ない。図書館の天球儀も、レティシャが作ったんだって今はわかってても、いつ忘れるか、いつ思い出せなくなるのかわからない」
 しばらく、何も言えなかった。ただ空白、抜け落ちばかりのそれを見下ろすしかできなかった。何を言うべきかが見つからなくて、結局逃げるように問いを向ける。
「覚えてるのは?」
「……レティシャが第二の隊長で、ディストさんが副隊長だったこと。エディルドが、イースの旦那さんだったこと。カルドが、わからない、でも大好きだった。トーリャとディウスも。クォルク団長は、古代語が話せる人だった」
「……先王陛下とか、……ラシエナとか俺のことは?」
 首を振る仕草だけ。そのすぐ後に深く息を吐き出す音がした。
「なにか、病気だったら良いんですけどね。理由がはっきりしていれば。……ユゼ団長に、伝えておいてもらえませんか。何か、調べる方法、知ってるかもしれません。その本も、……もう、たぶん、読まないから」
「……本は持ってろ」
 閉じたそれを押し付けるように紫銀の手に戻す。受け取ろうとしないのには多少無理矢理でも抱えさせた。
「エルシャリスの作った本なら、忘れてても思い出したことがあった時、本が近くにあれば転写される。一度書かれたことは消えない。思い出したあと忘れても本を読めば解る。だから持ってろ」
「……思い出せるかな」
「本を作った後でも新しいことがあれば全部転写される。そういう『本』だ、だから持ってろ。それなら忘れても読み返せば良いだけだ」
「覚えておくこと、出来ないのかな」
「……とにかく父さんとクウェリスには俺から相談しておく、自分から言うのはきついだろ」
「うん、……泣きそう」
 俯いたままの声は掠れていた。フードの上から頭を撫でる、そのまま一度肩を引き寄せて抱きしめてやれば素直にしがみついて来る。いやだな、と、小さい声が震えているのには何も出来なかった。
「……泣いても良いけど、きついなら避けとけ。代わりにやっておくから。明日フィエル様が来るんなら、あの人にも頼ろう。医術師の最高位だし、もし何か魔法関連のことならそれにも気付けるはずだ、だろ?」
「……うん」
「何かの呪いとかだったら洒落にならないからな。……休んどけ、ずっとそればっかり考えて疲れてるだろ。レナもそろそろ仕事終わって戻って来るだろうから、話せるようなら話して、無理でも一緒にいてもらえ」
「うん、……ラシエナ、どうしてますか?」
「別邸にいる。伝えておくか?」
 問いかければすぐに首を振って返された。わかった、とその頭を撫でる。腕から力を抜けば、少ししてしがみついて来る手が離れていった。フードの下、垣間見える口元には苦笑が見えた。頬が濡れた様子がないのには胸の中に安堵が垂れる。
「ラシエナも今は辛いだろうから、クライシェ様が良いって言うまで帰って来るな、って、強制的に休暇にしたんです。だから帰って来るまではそっとしておいてあげてください」
「わかった。……父さんのところ行って来る、クウェリスも来てるみたいだしな。場合によっては陛下にも伝えることになるかもしれないけど、それは我慢してくれるか?」
「必要なことなら、大丈夫です。……知ってもらえてた方がいいかもしれないです、何を忘れてるかもわからないって。陛下にも、宰相様にも」
「わかった。……夜には戻って来る、ちょっと待っててくれ。父さん捕まったらすぐこっち来れるようにしとくから」
「うん、……わかりました。お願いします。……本も、持っておきます」
「ん、とりあえず休んでおけ、な」
 頭を撫でればすぐに頷いて返してくれる。軽く頬を叩いてやって、そうすれば少し笑うような息遣いが聞こえた。少しでも立ち直れただろうかとは疑問に思いながらも、立ち上がった。
「じゃあ行って来る。何かあったらすぐレゼリスかレナに言えよ」
「大丈夫です、たぶん、レナには追及されるので」
「あいつ容赦ないからなぁ……とりあえず、無理しない程度にな。言いたくなかったら、俺が言わなくて良いって言ってたって言い訳して逃げとけ」
「……すぐバレそうですけど、はい。いってらっしゃい」
 やっと見上げて来た頭を撫でて、それから踵を返す。扉を開いて廊下に出て、閉じる合間に目をやった先では、表紙を開く仕草が垣間見えた。
 ――記憶喪失。幼い頃のことを覚えていないのは誰もがそうでも、明らかに欠落した異常な状態だと言われ続けて、それに対抗する手段もなく、忘れてしまった事柄でさえほとんど漏れなく拾い上げられるはずのエルシャリスの能力に頼って結果がこれでは、何をどうしても報われない。
 何かがおかしい、そう思いながら扉を閉じて、侍従には飲み物を運んでやってくれと伝えてから屋敷の出口にそのまま向かう。私服で隠形は規則に反する、それが面倒だと思いながら紫旗の本部に向かった。




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