どうやら工学師の持つ腰袋は緻密に細工が施されているらしい。一〇五個の核を革袋の中に丁寧に納めたエーフェは、ちょっと待っててな、とそこに声を向けて軽く手を当てて、それから立ち上がった。杖を消し去ると同時に構築陣が消え、そして虹色に染まっていた文字からも光が失せる。深く長く息をついたフェルは、杖は手にしたままこちらへと歩いてくる工学師を見上げた。
「あの魔法、必要ないんじゃないですか」
「初対面でいきなり核渡してくれる『異種』なんていないだろ、安全策だよ」
「……あんなの見たら期待しちゃうじゃないですか」
「期待より応援してくれ。必ず万人に扱えるところまで完成させる。俺が無理でも弟子に継がせる。……ありがとな、お前のおかげだよ、誤認は無かったみたいだ」
 集まってくる白黒たちを見て、そこに新しい傷が無いことを確認してからの声とともに陽晒しの頭を撫でられる。彼の癖、視線を遮るそれに、髪結いしてても結局はこういう扱いじゃないかとぶつくされて文句を言うことで、やっと視線を外すことができた。駆けてくる音と感覚に振り返れば、大型犬程度の姿に縮まった鋼。
『フェルも、なんとも無かった、か』
「ええ。コウも、……フィレンスも、大丈夫みたいですね」
 遅れて早足に距離を詰める相方は、不審がる表情を浮かべていた。それもそうだろう、説明なんてしていなかったのだから。いきなり背後から高位から低位まで、種々様々の『異種』が現れたと思えば同じ『異種』だけを攻撃して、獲物が無くなった後は工学師の元へと戻って行くのを見て不審を抱かないはずがない。
「……何、今の……?」
「秘密開発中の魔法。図書館の許可は貰ってるぞ、ぬかりなく」
「いや、ぬかりなくっていうか……何だったの今の……」
「後でな」
 言いながら工学師が手を伸ばしたのはコウの頭で、ぽんぽんと労うように撫でる仕草で察したのだろう、フィレンスはわかった、とだけ返す。集まってくる白黒たちも、黒の方が勇み足に見える。これは追及されるだろうな、と思いながら見ていれば、口を開きかけたエクサに先んじてエーフェがにやりと笑っていた。
「知りたきゃ出資しろ」
「っ、……お前な」
「図書館の仕事で開発してる魔法だよ、触媒大量に使うから工学師にしか今んとこ無理だって見立てでな。でも本当に工学師だからって出来んのか、って疑問解消のための試験動作。紫樹と白樹でもおんなじようなことやってるはずだな。俺はフェルのオフェシスの援護があったから安定してたけどやっぱ本来は構築段階で組み込まねえとだし課題ばっかなんだよ、だから知りたきゃ研究費用の金寄越せ」
「……業突く張りだな相変わらず」
「全ては人類魔法の為、が図書館の存在意義だかんな。まあ俺はこれから暫く黒に戻っけど」
「本心は?」
「黒に戻んのは図書館長命令なのと勘鈍るのの防止と前線状態の把握、あと資金繰りの一貫。司書って給料あんま良くねえんだよな。さっきのは、魔導師に対してびっくり成功って気持ちよくね?」
 顎めがけてだろう、振り上げられた杖を危なげなく避けてエーフェはにやにやと笑う。振り上げたエクサは、まったく、と声を落としながらその杖を肩に担いだ。遅れてセオラス、ゼルフィアの二人が駆けつけてくる。周辺警戒をと白黒に向けて言っていたのは秘匿の為かと遅れて理解して、フェルは尚更深く息を吐いた。
「ほんとびっくりですよ、いきなり目の前から大量の『異種』っぽいのが出てきたと思ったら真っ向無視されるし、エーフェさんは暴発しかけてるしで」
「魔力問題はやっぱどうにもなんねえな。魔石幾つか……七、八個割って相当きつい。俺保有値低いからな、こればっかりはどうしようもない」
「先に言ってくれれば魔石渡すなり魔力譲渡するなりしましたよ?」
「言ったらびっくりにならんだろ」
「言ってもびっくりしますってあんなの。使役式です?」
「今んとこはその括りだな。あるいは召喚式に分類されんのかもしれんし、その辺りは図書館長の判断だな。……残党いそうか?」
 紅桃が向いて言った先はセオラスで、迎えたのは思いっきり眉根を寄せて目を細めての腕組みだった。空間が硬直する、それを解いたのは蒼青の溜息だった。
「完成まで何年かかる?」
「工学師向けに作るんなら三年、魔導師が使えるようになるまでには俺の弟子か、その弟子あたりまで掛かるかも判らん。そこは保証できねえな、新しい定理作らねえとってとこまで詰んでる」
「詰んだ未完魔法に出資しろってか」
「その方が楽しいだろ?」
 言われたセオラスが口を噤んでしまう。後ろからクロウィルがその肩を軽く叩けば息を吐き出して、それでも何も言いはしない。代わりにクロウィルが口を開いた。
「とりあえず結界も無くなってるし、任務終了ってことで良いんだよな?」
「その筈だねぇ。とりあえず、あれ」
 あれ、と言いながら、フィレンスは雪を固めて作った地面のその下を指差す。本来は樹冠、幹と枝葉の森。
「フィオナの罠に引っかかりたくないし、そうするとコウに運んでもらうのが一番安全だと思うんだけど」
「またあれか……ッ!!」
 頭を抱えたのはゼルフィアで、その横で目を輝かせたのがエレッセアだった。尾をぺそりと雪面に落として、耳を垂れたコウが恐る恐る使役者を見上げる。
『……ど、どう、しようか……』
「今度はゆっくり飛んであげてください」
 心構えもできるはずですし。フェルは言って、それからゼルフィアを見て、ああ花が白く萎れていく、と呑気に観察するていを貫いた。



 強制送還が十八名。限界と判断した学長命令による撤退者が七名。残る二十名が途中脱落した数で、その中の半数は八時間以上の継戦に耐えた。治療が必要な学生の処置とひとまずの休息ということで、学生たちは監視哨に纏められたらしい。協会側は、フィオナが罠の解除を終えるまでの待機ということで、やはり監視哨の暖炉の前にめいめいが転がっていた。やはり白服の体力が最大の問題だったらしい、終了を告げ二時間の休息の時間を与えられて、それで白服たちは即座に絨毯やソファ、簡素な寝台に横になって寝んでいる。
「流石ね、白服に軽傷以上の傷はなし。黒服も、負傷はほぼ全員あるけれど、緊急要員一人が暴発寸前まで魔力を削ったり、数時間禁忌魔法を維持し続けた反動で魔力回路の疲弊を起こしたのが一人だけで、程度に関わらず全員緊急処置の必要は無いわ」
「ありがとうございます……」
「だからって無茶をするものではないわね。確かにあの魔法があったから、白たちの疲労も軽減できていたのは事実だけれど」
 左手首に当てられた指先が少し浮き上がって、そうしてから小さな陣を刻み込む。ゆったりとした温かさがそこから広がって行くのがわかる。腕を伝って背を渡り、爪先まで届いたのに少し遅れて陣は消え、はい、とクウェリスはその手首を軽く押さえた。
「断絶は起こっていないわ、時間経過で回復するから、それまでは魔法は使うとしても中位までにとどめておきなさいな。こんな大型の任務で、しかも査定だったなら、何日かの休暇も貰えるはずだけれど」
「……です?」
「査定が課された白黒は査定結果が通知されるまで任務には出られない。結果が出て通知されるまで、おおよそ一週間から二週間程度だな。お前の行動記録をクウェリスが取っていた、それを魔法院と図書館に提出して、キレーネイ老師とレスティエル様の許可が降りれば晴れて完全な黒だ」
「……じゃあ、フィレンスはまたしばらく個別に……」
 なるのだろうか、と、体躯を伏せた鋼の丸められた首元に背を預けて眠っている彼女を見やる。彼女もやはり相当に疲れていただろうに、それを隠すのが上手すぎるのが難点だ。思っているうちに長官の声が追いかけてきた。
「お前が結果待ちの間は紫旗に戻す」
 意外に思って、黄金を見上げた。ヴァルディアはフェルと隣り合うように絨毯に腰を下ろしたクウェリスの、少し距離を置いた隣で何かの書類に目を通しながら、言葉は淀みなく続く。
「これで任務に該当する案件自体も三割から四割減るという概算が出ている、そのための任務だったからな。お前も一度王宮に戻れ」
「え?」
「緋樹の件で神殿に動いてもらいたい。報告があった、緋樹の構成魔法は完全に汚染される前に自分から効果を途絶、消滅が確認された。だが街自体の魔力汚染が重度、騎士以外の立ち入りは禁止されてる。フィレンスは許可されない、禁忌破りだからな、魔導師も以ての外だ。魔力汚染を受けて死にかねない。……だから遺体の回収も出来ない。神官を向かわせてほしい、魔力汚染の浄化が必要だ、時間経過による回復を待てない、待っているうちに雪が溶けてしまう。汚染を受けたままの雪が解ければ土壌そのものが汚染される」
 膝の上に抱えた丸いクッションに顔の半分を埋めて、三角座りの膝を抱えた。しばらくの無音。
「……リアファイド様、行ったんですね」
「そうらしい。……馬鹿をする」
「……見つかったんですか?」
「聞いていない」
 なら、と思う。なら、そういうことだ。冬で良かったと東の長官なら言っただろうか。
 天災と同等の被害を被ったことには既に国王が救済を命ずる旨の勅令を下している。緋樹に暮らしていた民の全ての帰郷を叶えると王が民に宣言し、諸侯は一も二もなくそれに頷いた。当然、神殿も。
 だが、関わりたくない。その気持ちは無いではない。だがそれよりも、無理をすると分かりきっている彼女を関わらせるのも、似た性格の彼女の兄の無理も、間近で見たくない、その方が大きかった。できれば遠ざけてしまいたい。思ったところで自分の立場が許さない。
 息を吐き出した。結局どうしようも無いのが苛だたしい。諦観に全てを押し込めてしまえるほど、自分は割り切りのいい方ではないと知っている。
「……二日ください、長くなるかもしれませんけど。スィナル様と話します、協会に戻ったら、すぐに」
「すぐには駄目だ、許可できない。一度寝んでから行け」
「……もたもたしたくないです」
「急がば回れ」
 後ろから近づいてきた足音の最後に、声とともに後ろ頭を小突かれる。クウェリスとは反対側にエーフェが腰を降ろして、そして大きく息をついた。
「ちょっとは落ち着いたろ、しばらくこの任務のことばっかりで。だから慎重にやれよ、急ぐ必要は無い。遅くする理由もないけどな」
「……でも」
「とりあえず休むのが先。その調子で神殿に帰したら神殿騎士の輩にディアが殴られるからな、嫌だろ」
 無言に陥ったのを聞いて、クウェリスが苦笑する。手を伸ばして頭を撫でて、そのまま肩を抱き寄せた。
「今は寝てしまいなさいな。時間になったら起こすわ、怪我は無いけれど疲れているでしょう」
 クッションを抱えたままの銀色は簡単に傾ぐ。そのまま医術師の膝に頭が乗って、クウェリスは肩をゆっくりと撫でる。何度も何度も繰り返してしばらくして、息をついたのはエーフェだった。
「……で?」
「なんだ」
「嘘はつくものじゃないわね、ディア。あなただってアイラーンの邸宅には通っていたでしょう、何度も、何度も」
「公私混同はしない」
「なら、あなたはリアに「無理をするな」とは言えないわね」
 この部屋にいる白黒は、全員眠っている。会話は三人しか聞いていない。だからの会話で、クウェリスは声を殺しはしなかった。
「フェルに、王宮に戻れ、とも言えないはずよ。子供に押し付けるなんてあなたらしくない」
「……私が行ってどうする」
「少なくともなんの一言も無いよか、顔見せるだけ見せてこいよ、その方が良い。公爵も今は王都の別邸にいる、館長もな。公立機関も神殿も貴族たちも総出でやってる、少しは信用しろよ」
「信用はしてる。だから任せてる」
「だったら尚更だ。少なくとも緋樹領域のことに、蒼樹長官の名前で援助を出すべきじゃない」
「……悩んでいる」
「やめとけ。一大事は一大事でも、蒼樹が被ってなんとかなる程度ならもう収まってる。収まってないんなら蒼樹が手を出すところじゃない、少しでも蒼樹安定させて難民保護に回った方がまだマシだ」
「蒼樹に来た緋樹の所属たちの、その親族がいるのなら引き取るくらいは可能でしょうね。でもそれ以上は無理ですらないわ、無駄よ」
 言っても動かない。仕方なくエーフェが手を伸ばして手のひらを向ければ、小さな吐息と共に明け渡された。中身は見ずともわかる、だからその書類の束は目の前の暖炉に投げ込んだ。片膝を立てて腕を乗せて俯いた金は、表情を隠すようにそうしたまま、そのまま暫く動かなかった。
「……お前たちならどうした?」
「図書館の全権使ってアイラーンの係累だけ最優先にさっさと保護して居場所作ってリア宥める」
「スィナルを煽りに行くかしら」
「……変わんねえじゃねえか……」
「だから言ってんだよ。口調崩れてんぞ」
「知るか。……クウェリス」
「分かってるわ。私はこの子の引率と、リアファイドとスィナルのところに行くから、あなたはちゃんと蒼樹を守って、貴方自身に何ができるかをちゃんと公爵に訊いてきなさい。神殿にフェルを届けるついで、フィレンスを紫旗に逃がすついでにね」
「エーフェ、どうする」
「俺はこっち残っとく。緋樹の来てんだろ、世話見とくわ。留守してる女たちは帯作るっつってたしな、樹の帯ならちゃんと作った方がいい、見張っとく」
「……任せた。……疲れた、寝る」
「時間になったら起こすわ、おやすみなさい」
 言うクウェリスの声を聞きながら立ち上がったヴァルディアはそのまま鋼の方に歩を進めて、蒼い瞳がゆっくりと瞬くのを了承と見てその翼の下に潜っていく。また暫くの無音。クウェリスの手は、子供をあやすようにゆっくりと紫銀の肩を撫で続けている。
「……クロウィルに聞いた、」
 エーフェが呟くように言う。クウェリスは顔を少しそちらに向けただけ。
「フェル、本読んでないってさ。最初のところだけ夢で見た後ずっと置いたままだって」
「そう……」
「……なあ、本当に作って良かったのか?」
「賭けではあるわ、でも、今は問題はない。そう判断したわ、私は」
「先は」
「エルシャリスは想定しかできないわ、予言や未来予知なんて誰にもできない。それでも、ここを越えれば、もう何も起こらない」
「諦め悪いぞ、こいつ」
「知ってるわ」
 銀をまとめもせずに横になって、眠ったそれを見下ろす。腕に抱えたクッションはそのまま、体は小さく丸められている。いつもこうなのだろうか、膝を抱えるようにして眠って。
「でもね、だから賭けなのよ」
 言うそれに、銀灰に目を戻す。エルシャリスが作る本は記憶を全て写し取る。紫銀は自分の記憶を疑っている、その程度は予想できる。工学師に解るのはそれだけで、だからこそ不審に思う。何故それを『この二人』がやったのか。
「何賭けてんだよ」
「秘密。でも、そうね、私にも無関係ではないわ。この子が、私たちがこの賭けに勝てるのなら、私も盲目で良かったと思えるかもしれない」
「好きになれないんじゃなかったのか、こいつのこと」
「……全部聞いたのね、貴方相手ならいいとは思っていたけれど、十九の子供に見透かされていたと思うとちょっと癪ね」
「聞いたよ、全部な。で?」
「好きにならない、とは言ってないわ。好きになれないのは、なってしまったら第三者でいられなくなるから。当事者になってしまうから」
「当事者じゃねえか」
「そう、もう私も当事者。私だけじゃない、関係するのはもっと多くの人間だけれど、それでもそうだと気付いているのは私とヴァルディア、あと一人だけ」
「誰だそれ」
「秘密、よ。そんな簡単に教えるわけないでしょう、留守番の内に探っておきなさいな」
 中途半端な情報。それしか与えないのは、選択肢を示しているのと同義だとこの年月の付き合いの中で得た経験から、それ以外に無いと確信できる。知らないことを選べば第三者で居られる。知ろうと思えばこちらも同じ歯車に変わるだけ。そして、エルシャリスは『他人』を巻き込む気はないのだとさえ示した。
「……春までよ」
「なにが」
「期限。……春になれば、全部終わるわ。だから気付いても、何も言わないでいて」
 何をと聞いても意味の無い問いだろう。思えばただ息を吐き出すしかない。だからその空気は別に向けた。声として。
「俺は緋樹を優先する。今の所はな。東の手当てが終わっても春になってなかったら教えろ」
「……教えはしないつもりよ、私も、彼も」
「フェルは」
「……知らないわ、この子は。今何が起きているのかも、春……五月になれば何が終わるのかも」
「本人に教えないのか」
「知ってしまったら一本道しか残らない。そんなの賭けとは言わないわ。あくまで天秤なの、どちらに傾くか、それだけ」
 だから『何も言うな』かと、脳裏に呟く。声の途絶えた無音、そして苦笑を浮かべたエルシャリスが、眠る紫銀の肩を撫でていた手を浮かせて、クッションを抱えた腕、握りしめた手に自身の掌を当てた。
「……喋りすぎたわね。貴方は休まなくて平気?」
「まーな。あれの様子も見とかないとだし」
 あれ、とは言いながら、鋼の頭の上に寝そべった白い生き物を見やる。今は大きな眼を閉じて、どうやら眠っているらしい。監視哨に入ってここに落ち着くまでの間にやけに紫銀にまとわりつこうとしていたのを引き剥がして宥めて鋼に任せた結果だ。
 ――死告翼使、天使族の従属種。天使族は死神族とも呼ばれた。死期の近い人間の前に現れ魂を刈る。それを役目としていたとされる一族。その従属種族ともなれば性質も知れている。だからフェルにもフィレンスにもこれが何かとは言わなかった、ただ拾ったとだけ言った。ヴァルディアは気付いているだろう、クロウィルは、わからない。あの騎士だけは何を知って何を根拠にどう動いているのか、何を目的としているのか、その推測ですら成り立たない。何故騎士になったのかも、何故今ですら騎士をしているのかも、その欠片として悟らせてはくれない。
 だからただ、溜息を吐き出した。不穏とは感じている、不審に思うところもある。なのにそれよりも優先すべきものが多すぎる、この二人は、本当に春にそれを達することができるのか。もう三月に入った、春を迎える祭りまで二ヶ月を欠いている。春の祭りは四月の中旬。この紫銀は、黒で居続けられるのか。
 思って、不意に脳裏に浮かんだ言葉に険を覚えて眉根を寄せる。頬杖の代わりに額を片手で押さえて無音の悪態を吐き出す。
 ――『紫銀は死なない』。呪いのような言葉だと、それを思い浮かべてしまった自分の思考に唾棄を向けた。




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