ノックの返答を待たずに扉を開いて顔を覗かせると、長椅子で部屋の主が沈んでいるのが一番に目に入った。あれ、と思わず声に出して、僅かに首を傾げた。
「……フィレンス? 何かあったんです?」
「ああ……うん、気にしないであげて……」
 ひらりと手が宙を舞ってそのまま落ちる。何だろうかと思って部屋の中に入ると、そのフィレンスの向かい、ローテーブルを挟んだ対岸でイースとスフェリウス、そして別の椅子ではラルヴァールが一様にして沈んでいた。
 フェルは一度視線を落とす。少し考えてから、結局答えの見つからないままもう一度視線を向けた。
「……何があったんですかフィレンス」
「いや、うん、ちょっとね。団長がね……」
「団長? ……来てるんです!?」
 途端喜色を露にしたフェルに、ようやく上体を起こしたフィレンスが苦笑する。相変わらずだと思いながらもその黒に対して空いた椅子を示した。
「来てるけど、仕事。後で時間があったらって言ってたから」
「……はーい」
 途端残念そうに声を上げて、示された所に腰を下ろす。テーブルの上に積まれた書類を見て、その一つを拾い上げた。護衛師団の印が透かしで入った高級な紙、一番下に書かれたサインは見覚えのある物。
「……陛下……?」
「護衛師団が駆り出される事になってね、と言っても私たちはいつも通りだけど」
「何か問題でも?」
 師団が常の役目以外に優先事項を設けるなど珍しい。そう言外に問えばフィレンスは自身の目の前の一枚をひらりとそよがせ、差し出す。受け取ってみて見れば三つ折りになっていたのだろう跡、そしてぎっしりと詰め込まれた文章は見慣れない筆跡。
「……『異種』の大量発生……」
「ここ最近、数ヶ月で『異種』の発生が激化してる。国王軍が対応してたんだけど、しきれなくなったみたいでね」
「前にも、協会には要請があったみたいですけど」
「あれは師団から協会に依頼って形だったみたい。今回はそれを取り下げての要請、国からのね」
 国から、という言葉にフェルはその紙から顔を上げる。フィレンスが肩をすくめるのに、それを返しながら問いかけた。
「だから、師団と協会が?」
「そういう事」
 それで国王が直々にか、とフェルは胸中に落とす。年に二度という高い頻度で監査を受ける協会だが、実際には国としての影響力というものは色を冠するここには効きづらいものがあるのだ。長官が地位身分としては地方領主程度とはいえ、国内で戦闘員として常に前線に立つ騎士や魔導師が集まる場所、そう簡単に揺らいではならないという歴代の自負がそうさせた。
 国王と頭老院が直接に下す命令しか、直接に協会を左右する事は出来ない。今回は護衛師団の団長がそのどちらかの名代として四つの協会を回っているのだろう。
 そこまでを考えて、不意に思い至って視線を上げる。色違いの視線とかち合って、それで口を開いた。
「……もしかしてもしかするんですね?」
「正解」
 言えば苦笑したフィレンスが答えて、テーブルの上に置かれた封筒のうち一つを持ち上げる。それをフェルへと差し出しながら、彼女は僅かに浮かんだ笑みの色を抑えて言った。
「大公閣下、紫銀の方へと我らが主より親書を預かってございます」
「やめて下さいよ……」
 フェルはその台詞にほんの少し眉根を寄せながら、しかし素直にそれを受け取り封を開ける。__今の言葉は団員としてだろう、ならば主と言えばそれは。
「……国王請願……」
 取り出した暑い羊皮紙に捺された韻を見て、フェルは吐息とともに呟いた。内容を確認しながらちらりとフィレンスを見上げる。
「これ、王宮の外に出していいんですか」
「紫銀本人が王宮の外に出ている上何言っても戻ってこないってのに何を今更、というのが現在の頭老院の総意。どうせ本人以外は読めないんだしって」
「まあそうですけど……」
 言いつつもう一度羊皮紙に眼を落とす。一枚それを繰ると白紙の面が一瞬見えて、すぐさま黒い文字が浮かび上がった。国王と各大臣が列記で神殿に対し請願、協力を希うとする場合の公文書。神殿を一手に預かる紫銀しか読めず、書き込めないように一種の呪いが施されているものだ。本来ならば機密を神殿へと伝える際に使うものだ。わざわざそうするのは国王でも紫銀や神殿の長には中々直接会う事が出来ないからだが、実際に機密のみにこれを使ってしてしまうと様々に障りがあったのだろう。機密を知る事ができなくとも、まず神殿に渡さないという事は容易に出来てしまう。だからほとんど全ての書簡にはこれが使われる。
 今となっては、秘匿しておかなければならないというものを渡される事も殆どないが。せいぜい現国王が私信を別紙に添える程度のもの、今回も羊皮紙とはまた別の白い紙に綺麗に弧を描いた文字が並んでいるのを見て、フェルは息をついて微笑を浮かべる。
「陛下?」
「です、ね。相変わらずのご様子で」
 心配性、と小さく呟けば、当たり前、と返ってくる。便箋に一枚だけのそれを読み進めれば軽い自身の近況から、こちらを気遣うものへと変わっていく。ただ他とは違って素直にそれを読めるのは、戻って来い、の言葉が無いという、ただそれだけだった。
「……言付けで良い、だそうです」
「返答?」
「ええ。陛下が慣例を無視して良いと言うのだから、それに甘える事にします。本来は私が神殿で直接渡さなきゃですけど」
 無理にこちらには来なくていい、黒服としていないとヴァルディアも宮やあちこちに文句を言いかねないから__そう書かれた便箋にもう一度眼を通して、それでそれは仕舞ってしまう。本題の書かれた方へと視線を移せば、請願と題されたものの内容が浮かび上がる。
「……本心でいえば、一度戻って詳しく言い置いておきたい所ですが」
「大丈夫? 伝言なら届けるけど」
「……いえ、文字で伝えます。レゼリスならそれで汲んでくれますから。イースさん、あとで頼めますか」
 沈黙したまま微動だにしない三人のうち、一人にそう声をかけると呼ばれた方が上体を起こして頷き返す。それを合図にしたように後の二人も顔を上げて、ラルヴァールがフェルの方を見た。
「内容、どんなだった?」
「団にいったのとほとんど同じだと思いますよ。こっちは『癒し』と『鎮め』の力を借りたい、でしたけど」
 王宮の頂点からの書簡の内容を気安く聞いた彼に、フェルは羊皮紙を上下にそよがせながら即答する。フィレンスが肩をくすめるのは敢えて無視した、別に隠すような事でもないと思ったからだ。国王軍と神殿の守護騎士が共に行動する以上、そこには護衛師団も介入せざるを得ない。矜持の塊である国王軍にとって神殿騎士は目の上の瘤とも言えるのだ、神殿の威光を負いながらも戦闘能力は持たない騎士達。
 神官は魔法とはまた別の力、この国には珍しい確固たる信仰の力で傷を癒し心を鎮める力を持つ。騎士はその場を鎮めて『異種』の活動を制限しその発生を抑制する術を持つ。どちらもこのような事情では重宝される能力だ、だからこそ『異種』が近付く事のないようにと、常に神殿に控えている事が彼らの任なのだが。
 __矜持ばかり高い軍には妙な敵意を買いやすい、せめて護衛師団が抑えになってくれなければ。
「……万一を考えて訓練させておいて正解でしたね……」
「ん?」
「予知も時々は利くものだなと」
 フィレンスが聞き返してくるのにフェルが茶化して答えれば、何それと言って彼女は軽く笑う。それには笑い返して、そうしていると不意に背中の辺りが蠢いているのに気付いた。それで肩の方を見ようとしたところで、頬に柔らかいものが触れる。フィレンスがああ、と声を上げた。
「そんな所いたんだ」
「え、なにそれ狐の子?」
 スフェリウスが間髪入れずに疑問を差し込む。フェルは羽織ったコートのフードから出て来たまま肩に居座るそれを指先で撫でながら言った。
「狐の子に見えなくもないですけど。一種の精霊のようなものです」
「……精霊と仲良い方だと思ってたけどそんなの見た事無いぞ俺」
「それで正解だと思うよ、スフェ。ちょっと任務の途中で見つけて、懐かれたから持って返って来たらこうなった次第」
「……なにそれ、え、何か隠してる?」
「言ってない事があるだけだけど、知りたい?」
 言ったフィレンスがようやくスフェリウスの方へと視線を向ける。見合う数秒の後、眼を泳がせたのはスフェリウスの方だった。
「……なんかヤバいモノな気がするからやめとくわー」
「そっか」
 二人が言い合うのを聞きながらコウの柔らかく艶やかな頭を撫でてやると、その指先を軽く噛まれる。全く痛みを伴わないそれは馴れや親しみの現れの行動だと黒服達は言っていたが。
「……でも、今後王宮に戻る事があるとしたら、コウは留守番かな」
 フィレンスが言った瞬間、二対の眼が彼女を向く。ほぼ同時に動いた紫と蒼のそれらに、思わずフィレンスが小さく笑って、イースが苦笑した。
「……小動物」
「え?」
 そのイースが唐突に呟いた一言を聞き逃したフェルに構わず、彼女は息をついて体を起こし、背凭れに重心を預けながら言った。
「言い得て妙よね、最初に言ったの誰だったかしら、クロウィル?」
「あいつ自分から見て小さいからって意味で言ってんじゃなかったか?」
「それもあるんじゃないかなー。行動も中々的を射てる気がするけどね、クッションで遊べるし」
 スフェリウスとフィレンスがすぐさま言って、瞬く間に置いてけぼりを食らったフェルがラルヴァールを見れば、視線を受けた彼が溜め息を吐き出した。
「わると酷い事言ってるって自覚あんのかお前ら」
「あるよ?」
「あるけど」
「もちろんじゃない」
 誰かクロウィル呼んで来い、とラルヴァールが空を仰いだ。第二部隊の中でも比較的に常識人と評され、その上で自由極まりないこの三人をある程度であれ押さえる事が出来るのは一人しかいない。普通に普通の温和な人物は、団の中では割り切ってしまえば非常に平和に過ごせるが、そうなってしまうと普通でない大部分を左右する事は難しいだろう。真っ当な常識人にはとてつもない負担になってしまうから、やろうと思ったら多少似通った部分を持っていないと渡り合えないのだと、当人達は言うが。
 団は特に色が濃いと言われる。性格に難有りと。それは協会にも共通する事なのではないかと、フェルなどは思うのだが。
 なおも藍色達が何かを和やかに会話しているのを横に、フェルは書類にもう一度眼を落とす。どうやって老公を説得したものかを考えながら、その羊皮紙の端を齧ろうとするコウの首元をくすぐってやると、じゃれるように四肢をばたつかせて膝の上に転がった。かわいい、とそれをくすぐりながら、不意に一つの違和感に気付く。
「……そういえば」
「ん、どうした?」
 顔を上げるとフィレンスがこちらを見る。その彼女に向けて、フェルは首を傾げた。
「クロウィル、どうしたんです?」



 もう随分暗い。顔を上げた先の小窓が黒く塗り潰されているのを見て、目の前に広がった地図をテーブルの上に追いやって天井を仰いだ。肩と背中が痛い、目を閉じて息をつくと目頭がわずかに痛む。
 ゆっくりと視界を開く。書庫塔の中は明るい。中央の吹き抜けや書架の間に浮遊するカンテラの数を無意識のうちに数えながら、そういえばあの明かりの元もすべて魔石だったなと思う。視線を引き戻して、目の前のそれに向き直った。
「該当なし、か……」
 テーブルの上に視線を戻す。広げられた数冊の本、そして地図。数人で使っても余裕が出るだろう天板をまるまる占領して書散らした羊皮紙を拾い上げた。
「通常種族が約五十、稀少種族が約二十、絶滅危惧種が現在三……魔法特化が十二、五、一でいずれも明確な見分けが可能、その他はヒトと同程度。古代語を母語とする種族はすべて絶滅、と……混血がどうなるかだよな……」
 手袋に覆われた指で一番手前の本のページを繰る。広げた地図とページの内容を比べて、そして地図の一点に視線を向けて溜め息をついた。キレナシシャスの南の国境からさらに数日南下した先にある、未踏領域。全くの白紙となっているそこを指でなぞる。目算では、行くだけでも馬を使ってここから十日。
「……流石に、一ヶ月はかかるか……」
「なーにがだー?」
 急に割って入った声にクロウィルは顔を上げて、そして書架の陰から現れたその人を確認するなり盛大に息を吐き出した。近づいてくる足音を聞きながら呟く。
「帰ったんじゃなかったのかよ……」
「いーや、ずっとヴァルディアと話してた。これからの事とかな。それで、どこまで行って帰ってくるのに一ヶ月だって?」
 項垂れる。そのままで頭を振った。
「……どーせ言ったって無理なんだろ」
「分かってんじゃねえか」
 その台詞と同時に足音が止み、視界の端に映り込んだ藍色の袖が本を一冊攫っていく。僅かな沈黙、そして納得したような声。
「ああ、なるほどな。どうだ、何か分かったか」
「あんまり。絶滅種族でも、混血が残ってるのは多少あるし、そういったところで古代語を使わないとも限らない。ただキレナシシャスじゃないんだよな、どれも。この国の北は海だし、東とは長らく険悪だし、そうなると南か西か……そっちの稀少種族って、天使か悪魔かコド・エルシャリスか、あるいはキテア、カーレット、ファーリス、シェス、ツェン……」
「どれも絶滅してるか魔法向きじゃないか、だな……古代語は案外、魔導士の中じゃ浸透してるが」
 俯いたままの声には返答、しかしクロウィルはそれに首を振った。
「調べたけど、無理。古代語を通常の会話として扱えるのは個人レベル、人海戦術で国内あたらせるのに二ヶ月かかってる、大陸まで広げたら何年かかるか」
 そこまで言って、クロウィルはユゼを見る。同じく地図に目を落としていたユゼは、一点、やはり未踏領域を指先でたたく。
「ここの情報が欲しい」
「……だからそれで一ヶ月だっての」
「お前が直接行かなくても分かるだろ」
「そろそろ長官とかフィレンスとかに隠し通すの辛いんだけど?」
「なに、バレたら俺から言っとくから気にすんな。今更それで引くような奴らじゃないだろ」
 ユゼのその言葉には苦い顔を浮かべて、しかしクロウィルは拒否するでもない。その頭を一度叩くようにして、ユゼはにっと笑った。
「気にすんな。大体、フェルにはバレてるだろ」
「……あれは、多分もう覚えてないから」
「そりゃそうだが、忘れるまでの間に何かあったか?」
 言いながら、ユゼは不意に視線をそらす。書庫塔の中央を貫く吹き抜けの方に横目が流れたのに気付いて、クロウィルは机の上に広げていた本を閉じ、立ち上がって腕に抱えた。
「それで、何でこっち来たんだよ。次南行くんじゃ?」
「ま、真夜中に襲撃仕掛けてもよかったけどな、流石に迷惑になるだろうってんで、時間調整。後少しで出るよ」
「向こうで調整しろよ……」
「んだよ、そんなに父親に会うの嫌か?」
「言わせんな」
 書架に本を戻しながら、ユゼには背を向けたままクロウィルは答える。その返答にはやれやれと仕草だけで表して、書架に背を預けて口を開く。
「で、最近はどんな感じだ?」
「特に何も。変わった事もないし……母さんは、まだ王都に引っ越すの嫌がってんのか?」
「ああ、そっちも相変わらずだな。おかげでクィテントとシェルフェもまだ村にいる、時々は顔見せに来いって、手紙行ってるだろ」
「読んだよ、近いうち隙見つけて一回行く、剣も見てもらいたいし」
「恨み言言われると思うぞ?」
「……覚悟はしとく」
 答えて、クロウィルは息をつく。本を元のように直し終えてテーブルの地図をもう一度見下ろした。細かく地名や河川、都市まで書き込まれたそれはこの大陸の北西部を写し取ったものだ。クロウィルはそれを丁寧に折り畳みながらちらりとユゼを見やり、見られた方が背を預けていたそこから身を乗り出すようにしてその向こうを覗き込む。僅かな間をおいて、そしてユゼが垣間見えた銀に向かって口を開いた。
「フェル、こっちだ」
 少し大きく声を張ったそれに、いくつかの本棚を隔てた先でがたがたと何かにぶつかったような音が響く。ああやっぱりとクロウィルが苦笑するとほぼ同時に、その向こうの方から喜色ばかりの声が聞こえた。
「団長!?」
「おう、久しぶり」
 地図を箱の中に仕舞ってもとの位置に戻したところで振り返れば、予想通り藍の彼に抱きついたフェル。ユゼはなれた手つきでその頭を撫でやりながら、呆れたように口を開いた。
「半年も経ってないだろ、フェル」
「そういう問題じゃ、なんでこんな所いるんです?」
 顔を上げたフェルは僅かに上気した笑顔でユゼに問いかけて、不意にクロウィルに気付いてあ、という顔をする。慌ててユゼから離れようとするのを見て、二人が苦笑した。
「気にすんなって、雑談してただけだから」
「え、と、そう、です?」
「父親と二人っきりってどんな拷問だよ……そっちこそどうしたんだ、フェル。フィレンスの所行ってたんじゃないのか?」
 拷問、といった所で当の父親がにやりと笑うのは無視をしておいて、そうクロウィルが問いかければフェルは手に持っていた大きめの封筒をその彼に差し出すようにして示す。
「長官達と喧々囂々して来たんですけど、その帰り際のおつかいです。部屋にいなかったので、色々探してたんですけど」
「……何してたんだ、長官と官吏相手に」
「えへ」
 追究は照れたような笑みではぐらかされる。それでそれ以上の気が起きなくなってしまう自分も自分だなと思いながら差し出されたそれを受け取って、中を見ればやはり書類が入っていた。
 取り出して内容に目を通して、クロウィルはそのまま元あったように書類を戻して額に手を当てて俯いた。
「……どうしました?」
「……俺いつかあの長官に殺されるかもしれない……」
 フェルはそれで何となく察しがついたのか、何ともいえない笑みのような表情で視線を逸らす。ユゼは何の事だかと目を瞬かせていたが、不意にさて、と声を上げて窓の方を横目で見やった。
「俺はそろそろ行くが、フェル、どうする」
「行きません」
「なるほど」
 フェルの即答にはすぐに答えて、ユゼは小さく笑う。そうしてからその頭を軽く叩くように撫で、そのまま離したと思った瞬間にはその姿が空気に紛れるようにして消える。見送ったフェルがクロウィルの方をみれば、クロウィルは肩をすくめた。
「何しにきたんだか」
「世間話とか、ですか?」
「まあ、そんなところ」
 クロウィルは答えながら、上着の中から時計を取り出す。黒い針が深夜近くを指しているのをみて目を瞬いた。明るい場所にいたからか、時間感覚が薄れていたのか。
「フェル、明日は?」
「特に何も言われてません。任務がないみたいだったら、色々やりたいことはあるんですけど」
 答えるフェルを促す。部屋に戻るまでに誰かに見つからなければ良いけどと思いながら、緩く大きな螺旋を描く階段を降りていく。



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