細々とした話をすべて終えて部屋に戻る道すがら、神官の彼に一言断ってから彼とは別の方向へと何の気なしに足を向けた。どこに向かうでもなく、風の流れてくる方向へと歩いていけば、突き当たりに開いた扉の外、テラスに見た事のある色の白服が立っているのが見えた。わざと音を立てて近づいていくと、気付いた彼が肩越しに振り返る。
「ああ、そっちも終わったのか」
「今しがたな。……何をしてるんだ?」
 問いかければ、ロイはすぐのところまで来たエクサに下を示してみせる。その通りに視線を向ければ、眼下には整えられた庭園。その中に赤い人影が点々としていた。三階からでは表情もわからないが、相手がこちらに気付いている風もない。エクサは目を細めて遠くのそれを見やった。
「紅軍、か」
「だな。旗がないからどこの軍かは分からんが……右肩に青なら、フェスト伯かロンフィア伯か……」
 ロイの呟くようそれにエクサはちらと視線を向ける。ロイからは何の反応もなく、それで赤の方へと目を戻した。紅軍はどの領主の軍であれ赤を基調とした制服を身に着ける事から伝わった通称だ、差異はあるとはいえ、それだけでどの軍であるかを見分けるのは、一朝一夕にはできる芸当でもない。少し迷って、結局問いかけた。
「お前、軍属だったのか?」
「蒼樹に入る前にな。色々面倒があったんで、辞めた。ほんとはここにも来たくはなかったんだがな……長官に脅されてなぁ」
「なんて」
「逃げんな、だと」
 それにエクサはああ、と声をこぼすだけにとどまる。言いそうだ、とは、庭園を見下ろしながら呟いた。ロイは息をつく。
「長官の言動だけは分からん。予測がつかないというか、方向性が見えないというか……それに、どこからそういう情報持ってくるんだろうな」
「妙に人脈の広い人だからな、どこからでも、なんだろうが。それもどこ由来なのやら」
 素性が知れないのもそうだが、表面以外が全く見えないというのも彼にはついて回る。機会と状況があれば聞く事もできるだろうが、急に問いを投げかけたところではぐらかされるだけだろう。ヴァルディアは時折、他人が彼の素性を探ろうとする様子を見てはそれを楽しんでいる節も見せる。
 王宮の中でも、どれだけの人間がどこまでを知っているのやら。ロイが息をついて空を見上げれば、既に太陽は大きく傾いて藍色に染まりつつある。エクサは何度目か目を落として、赤い人影を眺めながら呟いた。
「……何をしている、という訳でもなさそうだが。何をしているのやら、寒いだけじゃないか?」
「ああ、見物だろ。この下の回廊が神殿と近いから、紫銀をよく見かける場所ってんでよく群れてたりするな、この時期は」
「へぇ……知ってたらわざと遠回りと貸しそうだけど、『閣下』は」
「知る限り、その通りだな。でもまあ可能性は高いってんで暇な輩はよく来るよ」
「暇なのか、国王軍」
「貴族出の騎士なんかはな。訓練を抜け出してもそう強くは言われないのが普通だよ。……戻るか」
 言った彼の視線を追いかける。紅の人影のうち、何人かがこちらを見上げていた。気付いたのかと思いながらそれを見返していると、横から軽く肩を叩かれる。背を向けて扉をくぐって、そこでようやく背後の視線が途切れて、エクサは横目をやりながら先をいくロイの背に声を投げかけた。
「……なんか、面倒そうな感じだな」
「その通りだよ。赤は白が嫌いなんだ、並んで黒も見下したりしてるけど」
「……何故」
「さあ。貴族の矜持じゃないか? 平民出の連中はそんな事ないし。……まあ遭遇しないのが一番、だろうなぁ。剣抜くのも魔法使うのも、ここじゃ特権がなければ許されない」
「特権……」
「将軍以上、あるいは神殿騎士、あるい藍色。あとは王族にのみ抜刀、魔法行使が許される。緊急時はそんな事言ってられないけどな」
「面倒だな、王宮は」
「国の中心だしな。規律でもって保ちたいものがあるんだろ」
 俺らには関係ないけど、と彼はのたまう。それにしてはとは声には出さずに胸中に落とし込んで、エクサは廊の先へと視線を投げた。不意にそこに二つの人影が見える。気付いたのかロイがそれに眼を向けて、そして瞠目すると同時に足を止めた。



 柔らかい明かりに満たされた部屋の中から扉をくぐって外に出れば、真横から刺すような陽が眩しくて、思わず足を止めて手を掲げて目元に陰を作る。なんとか目を上げようとしたところで身体全体が急に影に覆われて、顔を上げれば白いクロークが視界の左側を覆っていた。
「随分暮れていますから、陽が強いでしょう」
「ありがとう、レゼリス。少し眩しかっただけですよ」
 礼を言って、クロークが下げられるのを横にしながら歩き始める。陽は眩しいが、空はもう染まりつつある、すぐに暗くなるだろう。レゼリスがすぐ後ろについているのを背で感じながら広い回廊を進んでいくと、その途中で何かを話し合っているらしき四人組が見えた。通りかかるより早く、四人のうち一番賑やかな一人がこちらに気付いて、お、と声をあげた。
「わざわざのお出ましありがとうございました、大公閣下」
「それはこちらの言うことです、お疲れ様でした」
 数歩そちらに進み出て、胸の前で両手を重ねて軽く全身を沈めるようにして目を伏せる。各々の礼が返ってくるのを見やってから、不意に彼女は後ろに控えた神官を見やった。
「鈴の、先に」
 その一言で鈴の垂らされた杖を手にした数人は深く頭を垂れ、音もなく足早に神殿へと向かっていく。その後ろ姿が見えなくなってから、やおらフェルは胸元を押さえて深く息をついた。アルフェリアが小さく笑う声。
「お疲れ様です。あの鈴は換えさせたんですか?」
「魔力が根こそぎなくなってくのは避けたいですから。それは、フィエル様もヴァルディア様もおなじだと思いますけど」
「……閣下、人がいるやも」
 声音も口調も、彼女自身の砕けたそれに戻っているのを聞いてか、副官が小さく呼びかけるのには眉尻を下げて彼を見上げる。縋るようなその眼と表情に僅かにたじろいだ彼が、助けを求めるように四人の方を見やって、それには全員が苦笑する。北の長官が、では、と口を開いた。
「『閣下』、宜しければどこか部屋をお借り出来ますか? 少しばかり、四人と……閣下を交えて、お話したい事が」
「……わかりました、用意させましょう」
 僅か腑に落ちないような、少しむっとしたような声音で言って、それを受けて残っていた一人の神官がその場を足早に去る。次席か、とヴァルディアがそれを見送る横でリアファイドがレゼリスを見やった。
「まだ甘いなぁ、雪の団長」
「申し訳ございません、慣れない手には、どうも」
「……もう誰もいないのに」
「誰がいるとも限りません。もう暫く」
 視線をどこかに彷徨わせての小さな不満には困ったような笑みで言う。今は顔にかかる部分を後ろに垂らした紗がほんの少し不自然に動いて、そしてフェルは眼を伏せて息をついた。眼を上げた先には白。
「南の様子は、如何でしょうか」
 報告には平素にある、の一文しか記されない。直接に聞きたいと言外に問いかければ、彼は淀みなく口を開いた。
「なんとか、最近になってようやく落ち着いて来ました。……前代の事では、閣下と、お三方にもご迷惑を」
「一年以上前の事だ、今更だろう。気付けなかった咎はこちらにもある、南には早く立ち直ってもらえれば、それで良い」
 ヴァルディアのそれに、アルフェリアは苦味と迷いのある、僅かに歪んだ笑みでやってみます、と声を返す。白樹は、今一番難しいところにいる。前代の長官であった魔導師が、結果的にとはいえ引き起こしてしまった事件の影響で、人や所属者達がそこを離れてしまっている。管轄領域に暮らす人民の、実際に移住はしないにせよ、白樹に対しての不信は未だ根強い。
「……東はどうだ」
「俺んとこ? 最近じゃ『異種』よりもそれに乗じた治安問題だな。不法な組織と結社が、ここんとこ急増してる。地域の警備隊と組んでそっちはなんとか抑えてるけど。『異種』騒ぎは言わずもがなだな……それで言うなら、北のが直接の被害は大きそうだけど」
「ああ……」
 リアファイドから話を振られて、フィエリアルはくすりと笑う。ほんの少し冗談めかした眼で、そしてこれは秘密の事だけれどといわんばかりに身を少しかがめて、悪戯めいた声音で囁いた。
「実のところ、あんまり困ってもいないのです」
「……、え、」
「ですが、他の協会などなどに人員を向かわせる事を考えれば、ああ言うべきかと判断いたしました」
「……え、なに、先生、数ちょろまかすとかやったらそれ処罰対象……」
「ちょろまかしてはいませんよ。……白黒だけで考えれば、勿論、ああなりますとも」
 言い終えてにっこりと笑むフィエリアルに、他の三人は一様に何かを抑え込むかのように深い溜め息を吐き出す。少し遅れて理解したフェルが見上げれば彼はふふと笑って見せ、フェルは敵わない、というように苦笑した。
「狡いです、フィエル長官」
「おや、嘘はついていませんよ? ちょっと若者達を焚き付けて勉強の場と訓練の場を整えて、小物のに褒賞を設けさせただけです。私は正直者ですから」
 どの口が、とはルフェリアの声。そこに大公と長官を呼ぶ声が響いて、早足に戻ってきた二位の神官が整いましたと告げる。そのまま先導を任せて、歩き始める寸前、副官に視線を向ければ笑みでもって彼は答えた。
「折角のお話でしたが、聞きそびれてしまったようです」
「ええ、私もびっくりして忘れてしまいました。残念です」
 言い合う。金色の瞳がこちらを見たような気がしたが、気にせずにそのまま歩き出す。東翼の最東端の会議場から西に伸びる回廊を渡り、西側に並ぶ棟に向かう。数十人が寛げる大部屋や神殿が迎える賓客の為の部屋が並ぶそこに向かう途中で、そういえばと思い至った。首を動かさないまま視線を向ければ副官の頷き返す仕草が視界の端に入り込む。
 この状態で会いたくない、とは胸中に苦い呟きをこぼしておいて、しかしそのまま先行する五人についていく。この状態も誰か神官に見つかったら小言でも貰いそうなものだがと思いながら、二階、いつもに比べればどこか明るい雰囲気の棟に足を踏み入れた。
「あー、そうそう」
 踏み入れて早々、声をあげるリアファイドが足を止めないまま肩越しに振り返った。この人は誰に何を何度言われても崩した態度を崩さないなと思いながら、その視線に首を傾げる。何かと思っていると、彼は唐突ににやりと笑った。
「覚悟しといてくださいね」
「……え」
「おっとヴァルディアどこに行くんです、逃がしませんよ?」
 妙にわざとらしい敬語に思わず声を漏らした所に、更に前方からフィエリアルの声が聞こえて目を向ければ、何故かどことなく距離を空けたヴァルディアの腕を掴んだ北の彼が先導の神官についてまっすぐに歩き続けている。その様子を見てからもう一度リアファイドに視線を向ければ満面の笑みに出迎えられて思わず言葉を詰めた。
 歩く彼との数歩分の距離を詰める。手を伸ばしてその白いクロークを指先で引っ張る。既に前に向き直っていたリアファイドは口笛でも吹き出しそうな楽しげな様子を全く崩さず、フェルはそれを見て眉尻を下げた。
「……先生」
「だーめ。そんくらいじゃ揺れないぞー俺は」
 目もくれずに彼は言い放つ。後ろでレゼリスが苦笑する声が聞こえて、アルフェリアが口元を押さえながら、さあ、と促す。
「そんな事してるとまた通りがかりの神官に怒られますよ、二人とも」
「俺は別に、怒られ慣れてるからいいけど?」
「良くないですよ。多少は他人の言葉も振り返りなさい、リア」
「……せんせいだってーぇ」
「私を師と呼ぶのであれば、まずは恒例の説教から始めますが、良いんですね、リアファイド・レイディア」
 フィエリアルのそれには、冗談めかして言った当人が気まずそうに視線を逸らす。相変わらず腕を掴まれたまま連行されている体のヴァルディアもどこか遠くを見るような眼をした。
 リアファイドとヴァルディアは学友の間柄だ。二人とも北の紫樹の学院の出、その学長は長官であるフィエリアルが兼ねる事になる。つまるところこの三人は協会以前から繋がりがある訳だが、おかげで当代の四方協会は団結や協力といった方面に強い。アルフェリアは三人には遅れて長官の任を受けたが、特にこれといった問題もなくその中に入っているのは流石と言うべきか。
 何となく、長官たちは世代ごとに似通った性質の持ち主なのではないかという根拠のない思いが浮かび上がる。前代の長官たちとは、一人として顔を合わせた事はないのだけれど。
 そうしている間に東翼の中でも人の多い場所に通りかかる。途中に神官に連れられた白黒たちと出くわさないのは、そう指示していたからだが、その予想に反して視界の奥に見慣れた二色を見つけて思わず足が止まりそうになった。
 不自然でない形で、直接の視線を遮るようにアルフェリアが横に来る。顔をと背後から促されて、素直に後ろへと流していたヴェールを顔半分を覆い隠すような形で引き下げる。途端白く霞んだ視界の端に、僅かにその二色が掠めるのが見えた。
 無言のまま進み、長かった距離を詰める。その途中で一度強く手を握りしめて、そしてゆっくりと力を抜いていく。そうして廊の壁際に寄って腰を折った一対のその横を通り過ぎる、その間際に視線を感じた。何かを伺うような探るような、あるいは品定めをするような眼。だがそれをなんの反応もなく、いっそ冷めた感覚で受け流す事にだけ意識を凝らして通り過ぎ、そして視線の先で神官が開いて促す通りに扉の中に滑り込むようにして入る。あとに長官達が続いて、そしてレゼリスが廊の側に立ちそのまま扉を閉じた。
 暖かい色調で整えられたそこの音がもれないということを確認して、そしてフェルは小さく息をつく。耳元に誰かの手を感じて顔を上げると、彩度を取り戻した視界の中で丁寧に紗を捲ったリアファイドが困ったように笑っていた。
「悪いな。あいつら、東の」
「大丈夫です。……ちょっと、慣れませんけど」
 肩をすくませるように少しだけ持ち上げて、苦笑で付け加えれば頬を指の腹でつつかれる。そのまま、輪を描くようにローテーブルの周りに並べられたソファの一つに腰掛けた。上座下座も関係なしに好きな所にばらばらに座って、そして一番に口を開いたのは唯一無理矢理席に座らされて、さすがにもう逃げ出せないと悟って諦めたように眼を伏せたヴァルディアだった。
「……私の責任か?」
「欠片くらいはありますね確実に」
「大部分は当の本人だけどな」
 即座に二方向から声が飛ぶ。フェルもそれを聞いて思わず曖昧な笑みを浮かべて視線を落とした。フェル、と柔らかい声に呼びかけられて、渋々そちらに顔を向けた。落ち着いた紫の髪が黒い服に垂れているのが見えて、口を開いたのはフィエリアル。
「この間に何があったのか、は、聞きません。それは私達が一番良く理解しているつもりですから」
「……はい」
 視線を逸らしたくなるのを、無理矢理留める。ただ、年を経ての影響か、くすんで深い色に変わった黄色が、真っ直ぐに射るかのようだった。その顔に浮かんでいる常の微笑が、影を帯びているような気がする。
「あなたがそうした事で誰がどう思い、どこにどのような影響があったかは、あなたが一番良く解っているでしょう」
 これは解っていないはずがないだろうがという脅しと同等ではないのか、とっさに浮かんだその言葉を飲み込んでぎくしゃくと深く頷く。頷いてから顔を上げようとした瞬間視界に黒いものが翳み、ぱん、と何かが弾けるような音が間近どころでない至近に聞こえた。遅れて額に重い感覚、更に遅れて痛覚がようやく反応を返して来て、フェルは思わず両手で額を押さえて背を丸めた。見えるもの全てが涙に滲んだ中に心底呆れたと言わんばかり冷え切った声が降る。
「反省なさい」
「、……はい……っ」
 痛い、という言葉すら許さない声音に、そう答えるしかない。首の骨まで大きく揺さぶられているかのような重い浮遊感の中で足の下の絨毯やソファの感触を頼りに上体が揺れるのだけはなんとか押さえ込む。更に声が聞こえた。
「ヴァルディア」
「……はい」
「言いたい事は分かりますね」
「…………はい」
「助長される馬鹿も馬鹿ですが、する馬鹿も馬鹿です」
 二度目の音が響く。今度はやけに度を増して痛そうな音だった。溜め息を吐き出す音が、声を殺して何かを堪える息遣いに被さる。ぼやけた視界に声が落ちた。
「……察しが良い上に聞き分けが良いと困りますね。すぐに結論に辿り着いてしまって説教のしがいがない。まるで体罰の見本です」
「……十分かと思いますよフィエルさん。そこの、いつもはあんなに騒がしいのまで萎縮して小さくなっていて、良い塩梅です」
「ば、そんな事!」
「ああリア、君にも幾つか小言があります」
「……はい」
 そこから暫く、フィエリアルの声と返事を返すリアファイドの声だけが滔々と流れる。先の二人が、痛覚が訴える重量のある痛みとの戦いからなんとか立ち直りかけ、一人が完全に何も言えないまま項垂れ、一人がいつの間にか背の低いテーブルに用意された紅茶の半分を干したところで、ようやく一度言葉を切った彼が、まったく、と呟きを落とした。
「いつになったら私は君たちの教師役から脱せるんです」
「進んでそういう役を引き受けている以上無理だと思いますよ。私はやらない事にしてるので」
 我関せずの体でいたアルフェリアがそこでようやく口を挟む。フィエリアルも紅茶のカップを手にしながら、ちらと目線を上げて対岸の彼を見やった。
「少しくらい協力してくださいアルフェリア。少なくともこの三人よりは年長でしょう」
「どいつもこいつも年功で動くような素直な人間とは感じられませんからね」
「確かにそれだけで動かれても困りますが……まったく、誰も彼もがどれもこれもを中途に動いてくれて、それで手も焼かせてくれないのだから始末が悪い。下手を見ている方が気分が悪いですよ」
「……でも何かあったらもっと怒るじゃないですか……」
「もう一回やりますかフェルリナード」
「ごめんなさい」
 小声には冷めた声が頭上から降ってフェルは顔も上げられないまま即座に謝罪した。愛称じゃない時はまずい。経験則でそれは分かっていた。
 この北の人は世話焼きなのだ、それは本人も自認しているところではあるが、それ以上に彼は教師だった。魔導師らしい理詰めに加えて、こういった軽度の物理的手段に訴える事に対して遠慮も躊躇も無い。なまじ相手をする学生が生意気盛りの十歳程度から成年を迎えて暫くの小賢しい二十歳くらいまで分布しているものだから、対応も慣れきっているのだ。そして付き合いが長ければ長いほど、その方法も的確を極めていく。
 気まずい気分のまま、額を拳で押さえながら顔を上げれば対岸の斜めの位置に座ったヴァルディアと眼が合う。即座にほぼ同時に全く別の方向に逸らした。アルフェリアが空のカップを置いてさて、と声を上げる。
「そろそろ本題に入った方が良いんじゃないですかね四人とも」
「ああ、そうですね」
 思ったより時間を、というフィエリアルのそれにフェルが時計を取り出してその盤を見下ろし、驚いたように眼を瞬かせた。視線を向けてきたリアファイドにはまだ大丈夫だと伝えておいて、そして姿勢を正した。視線をアルフェリアに向ける。
「……それで、何か私に?」
「閣下に、いくつかお伺いしたい事と、相談です」
 問いかければ、それだけで空気が確実に作り替えられる。視線を向けられた方、リアファイドが一度頷いてから口を開いた。
「少し先の話にはなるけどな。各地の神殿と、それに対する『異種』の対応について__」




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