朝目覚めるのは、いつも早い方だと思う。日の出から少し経って、街の市場の鐘が鳴る前だから、街が目覚めるよりもずっと早くだ。
 朝の鐘は二回。朝の六時頃に一回、これは市場の店が始まる合図。二回目は一時間後の七時。これは街の人々の目覚めの合図にもなっていて、これを越えると街にも活気が表れる。
 フェルはくるくると曲線を描く自分自身の髪を一房摘んでむっすりとした表情を浮かべながら、背中に市場の鐘を聞いていた。息をついて立ち上がり、夜着の袖から腕を抜き黒服に袖を通す。胸元の掛け金を留めて、寝台に膝立ちになって窓に手をかけた。
 引き開けると同時にふわりと風が舞い込んで、フェルは目を瞬いた。街の家々を見れば、屋根の上にはまだ白い雪が点々と残り、街の外は未だ雪原。
「……ああ、今日は火の日……」
 不意に暦が脳裏を掠めて、寝台から降りて机に向かう。一抱えもありそうな開いたままの大きな本をめくると、びっしりと文字の並んだページが表れる。年初めの青の月の、今日は二十三番目の日。
 この本一冊が、そのまま暦だ。魔法使いが必要とする情報が全て載っているから、この大きさの一ページを丸々一日分に消費してしまう。フェルは並んだ文字列を目で追って、そして少し考えた。机の端に置いてある器具を、少しこちら側に寄せる。
 天秤のような形のそれは、しかし受け皿が十二個吊るされている。その上その小さな受け皿にはガラスで覆いがされていて、物を量る道具ではないと一目で見て取れた。
 フェルは十二の皿を水平に支えている軸を指先で軽く叩いた。途端ゆらりと揺れた天秤の、その受け皿の上に唐突に鮮やかな色の砂がさらさらと積もっていく。水色や青、赤や黄と、属性が表す色の砂だ。
 天秤の動きが止まって見てみれば、赤と青が釣り合っている。その二色を軸にするように灰色に大きく傾いているのを見て、フェルは小さく頷いた。
「特になし」
 呟いて天秤をもう一度つつくと、砂が消え去って水平に戻る。空気中の氣の傾き具合が分かる魔法具だ、需要は高い。魔法使い達は毎朝これと睨み合いをする事になるが、フェルは多少その負担は少なかった。魔法使い達は自分の命色その他を全てひっくるめてあの天秤を水平にしなければならないが、銀の髪と紫の瞳、服は主に黒と、考慮しなければならない要因がほとんどないに等しい。
 机の引き出しの中から櫛を取り出し、寝台に腰掛けてもう一度くるくるの髪を持ち上げる。原因は分かっているし犯人は予想がついている。息をついて、ゆっくり梳く。慣れた手つきで全体に櫛を通して、しかし僅かに落ち着いただけで依然くるりと跳ねるそれを見て、そして溜め息をついた。
 ノックの音。返事をしないうちに扉が開く音、閉じる音が続いて、そして声が聞こえた。
「フェル、起きてる?」
 フィレンスの声。フェルは少し声を大きくしてそれに答えた。
「起きてますよ。おかえりなさい」
「ただいまー」
 言ったフィレンスが階段をあがってくる足音。フェルは一度髪を見下ろして、そして観念した。
 本棚から顔を覗かせたフィレンスが、例によって小さく吹き出した。
「……朝起きたらきっちり三つ編みにされてたんです」
「うん、だいたい予想ついた。いつもながら見事だよねそれ」
 憮然と言うフェルに、フィレンスは些か早口に言う。
 フェルの髪は癖がつきやすく抜けにくい。そうと知れてから忘れた頃にやられる一種の悪戯である。フェルが胡乱な目でフィレンスを見れば、彼女は心外と言わんばかりの顔をした。
「私は昨日本部に泊まったよ。日の出よりも早く向こうを出てこっちに来たから、たとえその隙があったとしてもそこまで見事な事にはならないよ?」
「見事って何ですか」
 言い返す。櫛を通して直すのは早々に諦めた。
 しかしこれでフィレンスは容疑から外れる。イースは朝起きたらいなかったので一応疑いはあるが、彼女はいままで一度もやった事がないので多分違う。本人が寝る前にやったのではと人は言うかもしれないが、フェルの不器用さを一度でも見ればその考えは永久に彼方へと飛んでいくだろう。
「まあ、いつだったかのほんの少しだけやられるって奴じゃなくて良かったんじゃない?」
 言いながらフィレンスはフェルの手から櫛を取り、寝台に腰掛け後ろを向かせる。いつもは片側を少し三つ編みにするのだが、今日は後ろでリボンか何かで結べばいいだろう。多分この癖は夕方まで居座る。ちなみにフィレンスの中には『何もしない』という選択肢は存在しなかった。
「今日は何の色なら平気?」
「えっと、特には……いつも通りなので、水色か黒かです」
 それを聞いたフィレンスは一旦櫛を置いて衣装棚を開けて、その中を物色しはじめる。すぐに薄水色のリボンを手に戻り、手早くそれを結んだ。ふわふわの猫っ毛のようになっているが、これで多少気にはならなくなるだろう。
「よし、できた」
「ありがとうございます」
 フェルは笑んで彼女に言って、そして立ち上がる。コートを手に立ち上がって、そして既に立ち上がっていたフィレンスを見た。
「ごはん行きましょうか」
「ん、そだね」



 協会の中は、所属者の自治で回っていると言っても過言ではない。
 朝昼夜の食事の中で、朝食と夕食は特にその現れと言ってもいいだろう。
「おはようございます」
 フェルが扉を開けて声をかけると、一番に振り返ったのは黒い服の袖をたくし上げ、手にボウルを抱えた女性だった。黒服、朝食班の一人であるディナは二人を見て、そしてにこりと笑む。
「あら、おはようフェル。フィレンスも、今日はちゃんと起きれたみたいでよかったわ」
「やめてよ……」
 そのディナの言葉の後半にフィレンスは苦笑する。フェルも小さく笑った。フィレンスが朝に弱いというのは、いつの間にか知れ渡っている。おそらく先の一件から徐々にフィレンス本人が隙を見せ始めたからだろうとフェルは思っているが、本人は否定していた。
 協会所属者の食事をまかなっているのは、主に食事班と呼ばれる面々だ。元は食堂があったらしいがそれでは回り切らず、各自が適当に作るようになっていたが、それでは効率が悪いからこの場にいる全員の分を作ってしまえと誰かが啖呵を切った事から始まる伝統らしい。朝食班、昼食班、夕食班があって、彼等の先導により手の空いている所属者が食事を作る、というルールが出来上がっていた。この場にいない輩は自分でなんとかしろ、というのが暗黙の了解で、よって自然に人が集まった結果だ。誰も自分一人の為に料理なんてしたくない。
 ちなみに白服黒服以外にも書記官などの文官の姿もちらほら見える。垣根がないのも蒼樹の特徴だそうだ。
「ちょうど今作りはじめたばかりだから、手伝ってちょうだい。フェルは順次片付けの方よろしく頼むわね」
「了解ですー」
 フェルが答えて、一旦身に付けていたコートを脱いで椅子に掛けておき、フィレンスも同じようにクロークと手袋を置いておく。手を洗ってからフィレンスはディナを見た。
「今日は何?」
「スープとパンとサラダ。向こうで女の子たちがパン生地に苦戦してるから、加勢お願い。私もパンは苦手なの」
「あれ、珍しい」
「生地をこねる類いはね。よろしく」
 言ったディナはスープに取りかかる。彼女と同じく朝食班の一人、白服のロードがフェルを見つけて声をかけた。
「フェルは、とりあえず皿を出しておいてくれるか。あっちの棚にあるから」
「あ、はい。了解です」
「頼んだ。それと……その髪どうした?」
「!!」
 早速指示に従おうとしていたフェルが最後の一言に飛び上がり、そしてなぜかフィレンスを睨み付ける。フィレンスは「だから私じゃないって」と苦笑しながら作業に加わっていって、その様子を見たロードが目を瞬いた。
「……どうしたのか? 似合ってると思うが、嫌だったか」
「……嫌じゃないですけど。朝起きたら三つ編みにされてたんです」
 そうとだけ答えると、彼は一瞬ぽかんとした表情を見せて、そしてあっははは、と声を上げて笑った。フェルは早々にその場を離れる。
 早く来い犯人。今なら手が空いている。
 そんな事を思いながら手伝いをしているうちに、次第に人が増えてくる。今この場にはやはり女性が多いが、次第に男性も台所仕事に混じりはじめてきていた。
 この場で初めて会う人も少なくない。目が合えばたいてい相手が絶句するが、周りのフォローのおかげかあまり長く尾を引く事はなかった。今では既に大概の所属者と顔を合わせた事があるのではないだろうか。
「あー、出る幕なしか。こりゃ後片付け隊だな」
 そう言う声が聞こえて振り返れば、後ろ手に扉を閉めているのはロイだ。挨拶の声をかければ彼は手を上げて答え、既に人の手の足りていそうな戦場を見やる。フェルも一通りできる事はやった後なので今は見学だ。そしてただ眺めているだけのロイを白服の一人が見咎めた。
「ロイ、ちょっと頼まれてくれないか」
「なんだ?」
「長官にこれ届けて来てくれ」
 これ、と言ってその白服が指差したのは釣り鐘の形をした、白い布のかけられた何か。恐らくは長官の分だろう、彼はここに来ない分、所属者の善意によって執務室まで届けられるのが常だ。
 ロイは少し考えるような表情を浮かべて、了解、と軽く答えてそれを持ち上げ回廊へ取って返す。見送ったフェルに後ろから声がかかった。
「人が集まってくるまで後もう少しあるから、先に済ませちゃおうか」
「大丈夫ですか、準備?」
「後は焼くだけだから平気。今も順番に焼き上がってるから、あるうちに食べちゃおう」
 見れば朝食班は混む前に、と自分の分にさっさととりかかっている。フェルもフィレンスのそれに頷いて、自分の分を取って少し離れた場所に座る。食堂に良くある形の長机と椅子だ。二人が向い合せに座ると、数人の女性所属者が一言断り、すぐ隣に腰掛けた。やはり数が少ないからなのか、女性達は所々で小規模なコロニーを作っている。
 予想外だったのは、女性でも黒服よりも白服の方が多いと言う事だ。多いと言っても数は知れているが、なんとなく黒服の方が多いような気がしていた。
 そしてどんなところであろうと、女子が集まればする話。
「友達が今度結婚する事になったって手紙寄越して来たんだけど……」
 白服の一人、ユーリが言う。反応したのはその隣のシェリンだ。
「わあ、おめでたいじゃないか」
「めでたいはそうなんだけど……何かこう、虚しくなるのね……わたしもそろそろ考えなきゃなぁとか、でも相手いないしとか、そもそも騎士の時点で駄目なんじゃないかとか考えるわけよ……」
「……それあたし達に言って何が楽しいんだユーリ」
「楽しかないわよ、ないけどさ。ないけどさ、ベラ、あんたの横の若人見てるとたまにイラッとしない?」
 唐突に話を振られて、ベラの横のフィレンスが目を瞬く。口の中のものを嚥下してから、ほんの少し眉根を寄せた。
「……何で私?」
「なあフィレンス、あんた曲がりなりにも貴族の姫だろ。なんかこう浮ついた話とか一つくらい持ってるんじゃないのか?」
 ベラがにやにやと笑いながらフィレンスの顔を覗き込む。言われた方は苦い顔をして真正面のフェルを指差した。
「こっちのがすごいよ」
「え、そこで私に振るんですか。フィレンスだって去年のあれとか結局ものすごい事になっ__」
「フェル、頭の良くなるおまじない」
 言葉を途中で遮ったフィレンスのそれに、フェルは急に押し黙ってブイヨンカップに口を付けた。ユーリが目を瞬く。
「……頭の良くなるおまじないって、何?」
「知らない? 頭を拳で挟んで全力でこう、ぐりぐりとやるんだけど。正式名称とかあった気もするんだけど、忘れた」
「それでどうして『頭の良くなる』なの?」
「……『一つ学習して賢くなりましたね』」
 フェルが視線を泳がせながら言ったそれに、女性陣は遠い目をする。シェリンがその中でフェルとフィレンスとを見やった。
「でも確かに、二人ともいい話でも知ってるんじゃないか?」
「私は特にないですけど……というか考えてませんし。むしろシェリンさんが結婚考えてるのが意外で……」
 シェリンは女騎士でありながら紳士然とした雰囲気を常に纏う人だ。お伽噺に出てくる王子様、というのが一番しっくり来るかもしれない。ユーリがくすりと笑う。
「絶対シェリンが主導するわね。相手かわいそう」
「失礼だな。それに、私も案外縛られたいたちかもしれないぞ?」
 瞬間、三人分の視線が彼女に集まる。一人は疑問符を浮かべていた。シェリンは声を上げて笑って、冗談だよ、とその場を収める。
「いつになく爆弾発言しやがって……」
「君に言われたくはないよ、ベラ。この中で一番遠そうじゃないか」
「まあ、確かにあたしはそんな本気じゃないけどな。……そういえばフィレンスはどうなんだ? なんかないのか?」
 話題が欲しいからか、ベラは再び隣のフィレンスに降る。問われた方はパンをちぎりながら答えた。
「全部断ってる」
 別の意味で衝撃が走った。フェルがあーあーと呆れたような笑いを浮かべて視線を彼方へと投げる。もそもそと咀嚼する彼女に、ユーリが食って掛かった。
「っ、一割で良いわ、こっちに流しなさい!」
「ユーリ、ずれてるよ。でもまあ確かに……らしいといえばらしいけれどね」
「……なにさ」
「いや。君なら多分考えての事だろうし、私が言う事は何もないよ」
「……よし、じゃあ聞き方を変えるぞ。全員答えろ、好きな奴とかいるのか?」
 ちなみにあたしはいない。ベラはきっぱりと言い切った。そして周りのテーブルの男たちが微妙に聞き耳を立てている事に、彼女らは気付いていなかった。
 フェルは少し考える。
「……それって、結婚しても良いと思える人、って意味ですよね?」
「ああ、そうだ。その他に好きな奴って言葉使うか?」
「『好きな人』ならたくさんいるので。でもそういう意味なら、いないですね。考えてませんから」
「……だからフェルはそのカテゴリを改めるべきだって……」
 フィレンスが呟くのにフェルは首を傾げる。ベラの視線がフェルの横、シェリンに向いた。彼女は苦笑する。
「私かい? そうだね、いるにはいるよ」
「え、ほんとに!?」
「うっわ、ありえねぇ……」
「意外……」
「ですね」
 ユーリが声を上げ、ベラが苦い顔をして、フィレンスがしみじみと呟き、フェルがあまりそうでもなさそうに頷く。シェリンは視線を外す。口元は微笑んでいた。
「中々、思うようには行かないけれどね……」
 呟いて、彼女は視線を上げる。無言の面々を見渡して、そしてやおらにっこりと笑んだ。
「……と、言えば君らは信じるのかい?」
「……てっめ……ッ!」
「はは、ここでこう言ったら楽しいな、と思ってね。すまない、これも冗談だよ。それに……私のお眼鏡に適う男がはたしているのかな?」
 言いながら彼女は視線を背後に向ける。瞬間漂った冷気に数人の男が逃げた。逃げなかったのは多少なりとも胆の据わっている輩だろう。
 ベラが呆れた様子で息をつき、ユーリに目を向ける。向けられたユーリはたじろいだ。
「……一応、いるけど」
「いるにはいるとか一応とか、きっぱり答えらんねえのかお前らは」
「何かちょっと気恥ずかしいじゃない、やっぱり。……いるわよ?」
「誰なのか聞いても良いかい?」
「……ちょっと待ったそれ言ったらあたし一人の大暴露じゃない! フィレンスはどうなのよ」
「私? ……そうだな、どっちだと思う?」
 急に声がかかって、フィレンスは僅かに間を置いて問いを返す。ユーリとベラとシェリンの三人が目を見交わして、そしてテーブルの上に体を乗り出して囁きあった。
「どう思うよ、あたしが見て来た中じゃあの歳で相当堅物だぞ?」
「でも今まではどうやら演技だったようだからね、今の様子が素だろう?」
「どうかしら、ほんとは好きな人がいて心中複雑みたいな思春期的展開を熱望するわ」
「熱望してどうするんだよ……」
「でもいるとしたらそんな様子なのかもしれないね。案外その人の前では必死に平静を取り繕っていたりすると、すごく可愛いと思うけれど」
 沈黙。ベラが溜め息をついて、そして三人は姿勢を正す。
「……どうなりました?」
「……一応、いる『らしい』と言う事で」
「じゃあそういうことで」
 卑怯だ。ユーリが呟いた。
 不意に視線を巡らせたフェルが、途端むっと眉根を寄せた。何かと思ったシェリンがその目の向く先を見やって、そして視線に気付いたらしい彼がこちらを見る。
「おはようシェリン。皆も」
「おはよう、クロウィル」
 シェリンは笑みで答え、各々も応える。一つ声が足りずにふと隣を見れば、フェルは全力で彼の存在を無視する事にしたらしく、それに苦笑したフィレンスが振り返った。
「で、今日はどれだけ念入りにやったの?」
「三つ編みを三つ編みにしてみた」
「……暇人」
 それだけやられても気付かない自分の鈍感さは棚に上げてフェルは小さく呟き、クロウィルは「暇だったからな」と答える。その会話を聞いて、しかしベラははたとある事に気付いた。クロウィルを見やる。
「なんだ?」
「……いや、変な事になりそうだからやめておく。だけどなクロウィル、多少慎み持った方が良いぞ」
 その言葉でクロウィルは察しが付いたようで、だがただ肩をすくめてみせるだけだ。フェルが首を傾げたが、それはシェリンがその頭を撫でて誤魔化した。シェリンにも懐きはじめているフェルはくすぐったそうな表情を浮かべ、あっさり誤魔化される。
 ここにきてフェルの好みは明確になったと言えるだろう。
 しかし不意にそのシェリンが手をとめ、窓の外に視線を向ける。少し遅れてユーリがそれに続いて、ベラが声を上げた。
「……アゼリス!」
「分かってる!」
 応えたのは黒服の男性。彼がそう声を上げるのに被さるように、遠くから鐘の音が響いた。警鐘。
「……珍しいですね、朝に襲撃なんて」
 フェルが呟いて、スープを飲み干す。アゼリスと呼ばれた黒服が立ち上がって、そして片腕を掲げた。
「はい注目! いつも通りだ、もう長官に呼び出し食らってる奴と前回出た奴以外挙手! 選択肢は一から五!」
 その声にあちこちで指を立てた手が挙がる。フェルとフィレンスは目を見交わした。すぐにフェルが三本指を立てた手を挙げる。
「だいたい挙がってんな、よし。今日は……異様に早く来てたからいるはずのフェルかフィレンス!」
 あちゃ、と声がこぼれる。仕方ないと周囲の人が笑いながら言って、そしてフェルは口元に手を当てて声を張った。
「三ですー!」
「だそうだ、いってらっしゃい野郎共! 淑女の諸君は怪我しないよーにな!」
 そのアゼルスの言葉を皮切りに、あちこちで白服黒服が立ち上がり駆け足で向かう。『異種』が街に到達するまではまだ間がある、その間に迎撃準備を整えるのだ。
「じゃ、行こうか」
「ですね」
 二人も立ち上がる。気をつけて、と言う声に手を振って、外へと向かって歩き出した。




__________
三十八話を書いていたはずなんだ。
そうしたら何故か朝ご飯を食べていた。

そんなわけで短編、『蒼樹の朝』です。三十九話の朝だと思って頂ければ。
皆でごはん作って食べてたらなんだか家族みたいだよね。

フェルは、くるんくるんの日はいつも頑張って直そうとするのですが、
クロウィルはそんなフェルを見てにやにやしてるんでしょうきっと。
ほかの面々は暖かく見守ってるだけなんでしょう。きっと。

さて、閑話休題。次から本筋に戻ります。



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